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コンココンコンココンコンコン

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181,448 views • 2 years ago

異世界アイドル☆パラレルパレード NEO AKIBA ARCHIVE LOG R-16 ―完全包囲網― 面会室を出た時点で、グンソは尾行されていることに気づいていた。施設の出口。階段の踊り場。交差路の向こう。一定の距離を保った靴音が、近づきすぎず、離れすぎずについてくる。 ソナと面会した人間が、何も追われずに帰れるはずがない。 グンソは歩調を変えなかった。逃げるためではなく、仲間のいる場所へ戻るために歩いていた。自分が尾を引き受けたまま戻らなければ、特高は周辺の家を調べ、店主を脅し、関係のない人間まで連れていく。だから戻る。それが、面会を許された時点で決まっていた最後の手順だった。 南側の旧居住区。青紫の灯が途切れた細い路地の先に、古い借家がある。表札はなく、窓には布が掛かり、玄関灯も消えていた。 グンソは扉を二度、短く叩いた。間を置いて、もう一度。 内側から鍵が外れた。 扉を開けたドンチョルが、グンソを見た。 「遅かったな」 「見られている」 「知っている」 家の中には、ソンミン、ヘジュ、テジュンがいた。机は片付けられ、壁に貼られていた地図は外されている。床には小さな鞄が並び、棚の奥では書類を燃やす炉が赤くなっていた。 ここはもう、普段のアジトではない。 すでに、終わりの形へ変わっていた。 「全員いるのか」 グンソが尋ねる。 「必要な人間はな」 ヘジュの横に、見慣れない男が立っていた。背が高く、短く刈った髪。眉からこめかみへ伸びる古い傷。壁にもたれず、両足を床へ置き、いつでも動ける姿勢を崩していない。 「誰だ」 「カン・ムジン。旧国家軍の近接戦闘教導師範だ」 ムジンはグンソを一度見ただけで、玄関へ視線を戻した。握手もしなければ、挨拶もしない。 「外に、少なくとも八人。裏にもいる」 ドンチョルが床板の下から銃を取り出した。 「早いな」 「早くない。面会が終わった時から、向こうはこの家を囲んでいる」 ソンミンは小さな金属筒をテジュンへ渡した。テジュンが筒の中から記録片を取り出し、炉へ投げ込む。青い炎が一瞬だけ揺れ、記録片の表面に浮かんでいた文字が消えていった。 「面会申請の経路は消した。施設内部の協力者へ届く連絡も切った。ここを調べられても、次の拠点へ繋がるものは残らない」 「なら、俺も残る」 グンソが言った。 ヘジュが小さく笑う。 「それを言うと思った」 「六人いれば戦える」 「戦うために集まったんじゃない」 ソンミンが答えた。 「お前を通すために集まった」 その時、外で靴音が止まった。 玄関前だけではない。裏口にも、人の気配が散っていく。家の周囲を囲むように、複数の足音が位置を変えていた。 通りの灯が、端から順番に消えていく。 逃げ道を塞ぐためだ。 最後に、玄関前の灯だけが残った。青紫の光が窓布の隙間から差し込み、部屋の中にいる全員の顔を薄く照らしていた。 扉の向こうから、低い声が響く。 「中にいる者へ告げる。この家は、国家転覆に関わる未登録組織の活動拠点として確認された。抵抗しなければ、処分手続きは簡略化する」 ヘジュが銃を構えた。 「処分手続きって何だ」 扉の向こうの男は、感情のない声で答えた。 「名前が消えるだけだ」 短い沈黙が落ちる。 「死んだことにもならない。記録上、最初から存在しなかったことになる」 ソンミンがグンソへ視線を向けた。その目に、恐怖はなかった。自分たちがここで何をするのかを、ずっと前から決めていた人間の目だった。 「始めるぞ」 「俺も残る」 「お前は次へ行く」 「嫌だ」 「これは命令だ」 「嫌だ」 玄関の向こうで、金属を装填する音が重なった。 ムジンが一歩、廊下へ出る。彼はグンソを見ず、裏口へ続く暗い通路へ目を向けた。 「グンソ」 「何だ」 「お前は、まだ使える」 「仲間を置いて逃げろと言うのか」 「違う」 ムジンは、暗い通路の先を見たまま言った。 「俺たちが、お前を通す」 直後、玄関の向こうで小さな金属音がした。 次の瞬間、家全体を揺るがす轟音が響いた。 玄関が吹き飛ぶ。 白い煙と破片が家の中へ流れ込み、青紫の灯が激しく揺れた。ヘジュが銃を抜き、ドンチョルが窓際へ走る。テジュンは炉の蓋を閉じ、ソンミンがグンソの肩を掴んだ。 煙の向こうから、特高警察たちが踏み込んでくる。 その先頭に立つ男の影が、炎の向こうでゆっくりと姿を現した。 ソンミンが、グンソの肩を強く押す。 「行け」 グンソは動かなかった。 「行け!」 完全に閉じられた夜の中で、銃声が夜を引き裂いた。

Rain Konno | 境界の外側

33,642 views • 19 days ago

異世界アイドル☆パラレルパレード NEO AKIBA ARCHIVE LOG R-15 ―ソナ― 面会の許可が下りたのは、申請から四か月目だった。 一度目は該当者不明。二度目は収容記録の不備。三度目は、必要性が認められないとして却下された。 ソナがどこにいるのか、グンソには知らされていなかった。 今回、許可を通したのは施設内の協力者だった。書類を差し替え、面会理由を別の収容者の親族訪問へ紛れ込ませたらしい。 誰なのか、グンソは知らない。知れば、その人間まで消される。 施設は病院に似ていた。白い壁、狭い窓、整えられた植木。 だが、ここは病院ではない。 人間を分類し、記録し、必要な形へ整える場所だった。 面会室の前で、記録官が言った。 「武器は」 「ない」 「通信具は」 「預けた」 「名前で呼ぶことも認められません。会話は記録されます」 グンソは記録官を見た。 「妹だ」 「関係を聞いています」 「妹だ」 扉が開いた。 ソナは、面会室の中央に座っていた。 白い服。整えられた髪。記憶の中の少女より、ずっと細くなっている。崩れないよう、椅子へ身体を預けていた。 グンソが入ると、ソナはゆっくり顔を上げた。 「……兄さん?」 声は細かった。 グンソは、ようやく言葉を絞り出した。 「……背、伸びたな」 ソナはわずかに目を瞬かせた。 「……うん。昔は、兄さんの肩にも届かなかったのにね」 「そうだったな」 二人は机を挟んで向かい合った。 「久しぶりだな」 「……うん」 昔なら、ソナは沈黙を嫌がった。兄の隣で、何時間でも話していた。 今は、話しても許される内容を探しているようだった。 「ずっと探していた」 「……そう」 「場所を教えてもらえなかった。面会も何度も申請した」 「……そうなんだ」 感情がないのではない。感情が、言葉になる前に止められている。 グンソは監視窓へ目を向けた。 「ここでは、よくしてもらっているか」 ソナは答えなかった。黒い窓を見て、ほんの少し首を横に振る。 グンソが手を伸ばしかけると、ソナの身体が反射的に引いた。 手が、空中で止まる。 「……ごめん」 「謝るな」 「でも……」 「謝るな」 ソナは俯き、かすかに笑った。 「兄さん、変わらないね」 「お前は変わった」 言ってから、グンソは後悔した。 その笑顔は、誰かに教えられたものを再現しているようだった。 グンソは、あの日を思い出した。 床へ押さえつけられた自分。白い識別帯を巻かれるソナ。 「兄さん! 帰って!」 自分を拒絶したのではない。兄まで奪われることを恐れていたのだ。 グンソは、現在の面会室で言った。 「家に帰ろう」 「……帰れないよ」 「帰れる。俺が連れて帰る」 「兄さんには……無理」 「無理でも行く」 「ここは、そういう場所じゃない」 「なら、俺が壊す」 その瞬間、ソナの瞳に恐怖が浮かんだ。 自分へ向けられたものではない。 グンソまで、この場所に奪われることへの恐怖だった。 「兄さん……帰って」 「嫌だ」 「帰って……お願い」 扉の外で鍵が回った。 刑務官が入り、ソナの腕を掴む。 「面会を終了します」 「まだ時間がある」 「規定です」 グンソは立ち上がった。 「触るな」 監視窓の向こうで、複数の気配が動いた。 ソナの声が震える。 「兄さん、帰って!」 もう二度と会えないかもしれない。名前を呼ぶことさえ、ここでは記録される。 それでも、グンソは声に出した。 「ソナ」 記録官が顔を上げる。 ソナの目が揺れた。 「帰って、兄さん……!」 刑務官がソナを引いていく。グンソは手を伸ばした。 だが、ソナは首を振った。 扉が閉じる。 最後まで、ソナはグンソを見ていた。 唇が動く。 声は届かなかった。 それでも、グンソには分かった。 あの日と同じだった。 帰って、と言っている。 自分を守ろうとしている。 ソナの姿が、扉の向こうへ消えた。 グンソは動けなかった。 ようやく会えたのに、交わせた言葉は昔の半分にも満たなかった。 ただ、消えなかった妹の名前だけが、胸の奥で繰り返されていた。 ソナ。

Rain Konno | 境界の外側

37,190 views • 20 days ago

異世界アイドル☆パラレルパレード NEO AKIBA ARCHIVE LOG R-13 現在から四年前。 ―保護対象― その夜、管理者の部屋の扉が三度鳴った。 いつもの訪問なら、オルフェンは二度しか叩かない。 管理者は机の上の書類から目を上げた。 「入れ」 扉が開く。 オルフェンは白い外套を脱がずに立っていた。手には、黒い革の書類筒を抱えている。 「遅くにすみません、管理者さん」 「何だ」 「少し、見ていただきたいものがあります」 オルフェンは部屋へ入り、机の前まで歩いた。 書類筒の封を切る。 中から出てきたのは、数枚の名簿、折り畳まれた地図、赤い印の押された記録だった。 紙の端は何度も折られ、何枚かには乾いた泥が付いている。 管理者は一枚目を手に取った。 「どこから持ってきた」 「内部にいる方々からです」 「抵抗組織か」 「正式な名前は、聞いていません」 「なぜ、お前に渡した」 オルフェンは一枚の紙を机へ置いた。 救援要請。 収容区画、北部監視都市。 候補生、百二十七名。 処刑予定、三十一名。 家族との連絡、全面禁止。 外部協力者、確認出来ず。 管理者は紙を読み終えた。 「議会へ提出したか」 「はい」 「返答は」 「軍事介入は承認出来ない、と」 「理由は」 「全面戦争になる可能性がある。国境を越えれば、アルトリウスが攻撃対象になる。救助対象の人数も、正確には確認出来ない」 オルフェンは、そこで一度だけ息を止めた。 「だから、何もしないそうです」 管理者は書類を机へ置いた。 「お前は、何をしたい」 「相談に来ただけです」 「この資料を持って来て、相談だけか」 オルフェンは、いつものように笑おうとした。 けれど、口元は動かなかった。 「はい。私は、戦争を始めたいわけではありません」 管理者は机の上を片付け、空いた場所へ大きな地図を広げた。 その上に、小さな木製の駒を並べる。 黒い兵士。 銀色の観測塔。 青銀の騎士。 白い人形。 「どこだ」 「北部監視都市です」 オルフェンが地図の一点を指す。 管理者は黒い駒を城壁の前へ置いた。 「巡回兵」 次に、細長い魔導銃の駒を並べる。 「射手。正門には重装部隊」 オルフェンは青銀の騎士を正門へ動かした。 「では、ここから入ります」 「正門だ」 「分かりやすいので……」 いつもの軽さが、途中で消えた。 管理者は騎士を指で押し戻した。 「三分で囲まれる」 「では、地下水路は?」 「封鎖されている」 「こちらは?」 「崩れる」 「こちらは?」 「落とし穴がある」 オルフェンは、地図を見つめた。 「ずいぶん歓迎されていますね」 「歓迎ではない」 黒い駒が増えていく。 青銀の騎士は、逃げ道を失っていった。 オルフェンは書類へ手を伸ばす。 一枚目。 二枚目。 赤い印の押された三枚目。 保護対象者名簿。 名前の代わりに、番号が並んでいる。 A-12。 B-07。 C-03。 その中に、一枚だけ詳細な記録が挟まっていた。 A-12。八歳。 母親の呼称に強く反応。 夜間音声刺激、実施。 02:13。母親の音声記録を再生。 対象、三度発声。 「おかあさん」 発声器官の使用を停止。 音声記録の再生を禁止。 記憶刺激を遮断。 情緒安定処置、継続。 治療終了。 オルフェンの指が、紙の上で止まった。 「この“治療終了”は、何ですか?」 管理者は答えなかった。 オルフェンは別の紙をめくった。 死亡者一覧。 急性衰弱。 治療反応なし。 観測終了。 さらに裏面には、死亡後の処置が記録されていた。 神経組織、保存。 発声器官、摘出。 魔力反応部位、分離。 残余組織、廃棄。 オルフェンの手から、青銀の騎士駒が落ちた。 木の駒が地図の上を転がり、城壁の手前で止まる。 「治療終了というのは……」 「死亡だ」 「死亡と書かないんですか?」 声が、少し低くなっていた。 「死亡と書けば、誰かが責任を負う」 オルフェンはA-12の記録へ目を戻した。 「この子は、母親の声を聞いただけで治療が必要だったんですか?」 「母親を呼ぶ声が残っていると、命令に反応しなくなる」 「だから、声を消した」 「そうだ」 管理者は、別の欄を指で示した。 「発声器官の使用停止。記憶刺激の遮断。音声記録の再生禁止」 机の端には、本人同意書が添えられていた。 署名欄には文字ではなく、小さな指紋が押されている。 保護者欄には、すでに死亡した母親の指紋があった。 「この子は、同意したんですか?」 「指紋がある」 「文字も書けない子供が?」 「制度上は、同意したことになっている」 オルフェンの指が、紙の端をさらに強く押さえた。 「この指紋は、母親のものですね」 「ああ」 「亡くなった後に、同意したことにされた」 管理者は答えなかった。 オルフェンは白い人形を一つ取り上げた。 人形の裏側には、名前ではなくA-12と刻まれている。 それを収容区画へ置く。 「この子は、兵士になる前に、子供であることを奪われたんですね」 声は静かだった。 その静けさの奥に、抑え込まれた怒りがあった。 管理者は、家族への返却申請書を机へ置いた。 申請却下。 理由。 帰属意識の再形成により、適応率が低下する可能性。 オルフェンはその一文を読んだ。 「帰る場所があると、兵器になれないんですか?」 「帰る場所がある人間は、死ぬ命令にも疑問を持つ」 「だから、帰れなくする」 「ああ」 オルフェンは、白い人形を見つめた。 「議会は動かない」 「ああ」 「管理局も?」 「ああ」 「軍勢は?」 「ない」 「補給は?」 「ない」 オルフェンは、地図の上に並ぶ黒い駒を見た。 「それでも、この子たちは待っています」 「お前一人で行っても、全員は救えない」 「全員を救えないから、誰も救わないんですか?」 管理者は答えなかった。 オルフェンは白い人形を、収容区画から外へ向かう道へ動かした。 「この国は、壊さなければ止まりません」 「止めた後の責任はどうする」 「私が持ちます」 「お前一人でか」 「一人ではありません」 オルフェンは管理者を見た。 「ここに、管理者さんがいますので」 短い沈黙が落ちた。 オルフェンは視線を逸らし、青銀の騎士を地図の端へ戻した。 アルトリウスの側へ。 「今回は、議会の判断を待つしかありませんね」 管理者が顔を上げる。 「待つのか」 「はい」 オルフェンは書類をまとめた。 「明日は水車の修理を手伝う約束がありますので」 「そうか」 「それに、私一人で国境を越えるのは無理でしょう」 「珍しく分かっているな」 「管理者さんに、何度も言われていますから」 オルフェンは立ち上がった。 「遅くまでありがとうございました、管理者さん」 「何の礼だ」 「作戦会議に付き合ってくださったので」 「作戦ではない」 「そうでしたね」 「おやすみなさい」 「おやすみ」 オルフェンは扉へ向かった。 その直前、机の上を振り返る。 青銀の騎士は、アルトリウスの側へ戻っている。 A-12だけが、収容区画の前に残っていた。 オルフェンは何も言わず、部屋を出ていった。 扉が閉じる。 青紫の灯りが、保護対象者名簿を照らしていた。

Rain Konno | 境界の外側

44,251 views • 22 days ago