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この独創的な1880年代のダヴェンポート・デスクは、船室のスペースが限られていた船長のために特注で作られました。

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異世界アイドル☆パラレルパレード NEO AKIBA ARCHIVE LOG R-19 ―港へ― 地下水路の奥で、五人の足音が重なっていた。 誰も振り返らなかった。 背後から追手の声は聞こえない。銃声も、怒号もない。 だが、それは安全を意味していなかった。 ムジンが作った時間が、まだ残っているだけだ。その時間が尽きれば、追手はここまで来る。 「止まるな」 先頭を歩くソンミンが言った。 グンソは返事をしなかった。 耳の奥では、あの音がまだ鳴っている。 一度目。 二度目。 そして、遠くなった三度目。 ムジンがまだ立っているのか。 倒れたのか。 生きているのか。 もう、確かめることはできない。 グンソの胸元には、テジュンが拾った記録片があった。焼け焦げた金属片。その表面には、消されかけた名前が残っている。 ソナ。 名前を守った者たちが、自分たちの名前を隠して逃げている。 その矛盾が、グンソの胸を締めつけていた。 「……ムジンは、俺たちに生きろと言った」 グンソが呟いた。 「だから生きる」 ソンミンは前を見たまま答えた。 「名前を隠してでもか」 「捨てるんじゃない」 暗い水路に、ソンミンの声が落ちる。 「取り戻すために隠すんだ」 その先に、薄い光が見えた。 風の音。 潮の匂い。 遠くで鳴る汽笛。 港が近い。 だが、出口の手前でヘジュが足を止めた。 「待って」 五人は崩れた配管の陰へ身を寄せた。 地上から、複数の靴音が聞こえる。 一定の間隔。 乱れのない歩幅。 人間が歩いているというより、決められた巡回手順そのものが通過しているようだった。 「地下側は?」 「異常なし。逃亡者は港へ向かった可能性が高い」 「船渠側の照合を強化しろ。未登録者の乗船を確認した場合、現場判断で拘束して構わない」 「危険度判定は?」 「保留。対象の身元が確定していない」 「身元がないのではなく、記録がないだけだ」 乾いた声が答えた。 「記録がない人間は、存在しないのと同じだ」 靴音が遠ざかっていく。 それでも五人は動かなかった。 やがて、港の汽笛が鳴った。 ソンミンが手を上げる。 「今だ」 地上へ出た瞬間、港の照合灯が一度だけ点滅した。 青紫の光が、五人の姿をなぞる。 顔。 衣服。 人数。 歩行速度。 灯りは人間を照らしているのではなかった。通過したものを、数字と判定へ変えている。 「見られたか」 ドンチョルが囁いた。 「違う」 ヘジュが港の柱を見た。 「照合された」 柱の表面に、淡い文字が浮かんだ。 《未登録集団の通過を確認》 《構成人数:五》 《危険度判定:保留》 警報は鳴らなかった。 追手も現れなかった。 それでも、五人はすでに港のどこかへ残されていた。 「走るな」 ソンミンが言った。 「走れば、逃亡行動として確定される」 五人は歩いた。 追われている人間ほど、追われていないふりをしなければならない。 港の作業員たちは、五人を見ても見ないふりをした。視線を合わせない。足を止めない。余計なことを尋ねない。 見ないこともまた、この場所で生きるための手順だった。 積み上げられた木箱。鉄籠。浄化用鉱石の袋。壁面に並ぶ管理番号。 荷物にも、人間にも、行き先と扱いが定められている。 番号を持たない者だけが、静かに消される。 「船が必要だ」 テジュンが言った。 「正規の船には乗れない」 ヘジュが答える。 「なら、正規ではない船を探す」 五人は貨物の影を縫うように、港の奥へ進んだ。 途中、グンソの足が止まった。 掲示板に、捜索指名の紙が貼られていた。 顔写真はない。 名前もない。 ただ、五人分の特徴だけが記されている。 《反国家活動の疑い》 《武装逃亡者》 《発見時、直ちに通報せよ》 その紙に、ムジンの名はなかった。 グンソはしばらく掲示板を見つめた。 存在しなかったことにされている。 だが、ムジンは確かにそこにいた。 銃声の前に立ち、五人を逃がすために時間を残した。 名前がないことは、何も残さなかったという意味ではない。 「グンソ」 ソンミンが呼んだ。 グンソは掲示板から目を離し、歩き出した。 港の一番奥。 照合灯の届かない古い船渠に、一隻の貨物船が係留されていた。 船体は黒く汚れ、塗装は剥がれている。 船名は削り取られ、側面には古い水質調査船の刻印だけが残っていた。登録番号も消されている。 それでも、船尾の機関室からは低い振動が伝わってきた。 古い機械が、苦しそうに息をしている。 「人の気配がない」 ドンチョルが船内を覗き込んだ。 「荷下ろしの途中で離れたのかもしれない」 テジュンが船体脇の木箱を調べた。 その隙間に、破れかけた積荷票が挟まっている。 テジュンが引き抜いた。 紙面には、かろうじて文字が残っていた。 《搬送先――アルトリウス》 「アルトリウス……?」 ドンチョルが呟いた。 「知っているか」 テジュンが尋ねる。 誰も答えなかった。 聞いたことのない名前だった。 それが都市なのか、港なのか、国なのかすら分からない。地図のどこにあるのか。どれほど遠いのか。そこに何があるのか。 何一つ、分からない。 「この船は、どこへ行くんだ」 グンソが言った。 ソンミンは積荷票を見つめた。 「分からない」 「分からない場所へ行くのか」 「分かる場所に残れば、捕まる」 ソンミンは船体の奥を見た。 「分からない場所なら、まだ追手も来ていない」 船体脇には、船底へ続く狭い整備扉があった。 錆びた鍵が掛かっている。 テジュンが工具を取り出し、音を立てないように鍵を外した。 扉の向こうから、湿った鉄と油の匂いが流れてくる。 人が五人、身を寄せれば隠れられる程度の空間だった。 「ここに入る」 ソンミンが言った。 グンソは動かなかった。 扉の向こうにあるのは、ただの暗闇ではない。 故郷を出ること。 名前を隠すこと。 ムジンを置いていくこと。 すべてが、その狭い船底の向こうにあった。 「グンソ」 テジュンが低く呼んだ。 「ムジンは、俺たちをここまで通した」 グンソは目を閉じた。 鉄扉の向こうから聞こえた、最後の衝撃音を思い出す。 胸元の記録片を強く握った。 「……入れ」 ソンミンが先に入った。 ヘジュ、ドンチョル、テジュンが続く。 最後にグンソが振り返った。 港の照合灯が、ひとつ点滅した。 《対象の移動を確認》 《危険度判定:保留》 警報は鳴らなかった。 だが、保留という言葉は許可ではない。 まだ処理されていないだけだ。 グンソは船底へ身を滑り込ませた。 扉が閉じる。 外の青紫の灯が細い線になり、やがて消えた。 狭い船底で、五人は息を殺した。 しばらくして、甲板の上から足音が響く。 「積み込みは終わったか」 「まもなくです」 「出港を急げ。今夜の潮を逃すな」 誰かが扉の近くを通り過ぎる。 足音が遠ざかる。 機関が低く唸った。 船体が震えた。 鉄板の隙間から差し込んでいた港の光が、ゆっくりと後ろへ流れていく。 船が岸を離れたのだ。 故郷が遠ざかっていく。 グンソは目を閉じた。 ムジンの声は、もう聞こえなかった。 それでも、胸の奥には残っている。 生きろ。 誰も知らない場所へ。 誰も知らない名前の街へ。 行先として残されていたのは、アルトリウスという文字だけだった。 それがどこにあるのか。 何が待っているのか。 五人には、何一つ分からない。 ただ、背後に残れば捕らえられる。 だから彼らは、行き先の分からない船の底で、初めて故郷の外へ出た。 記録の外側へ。 名前を失った者たちの、最初の航海へ。 機関の音が、暗闇の奥で深く鳴った。 五人を乗せた船は、未知の水路へ進み始めた。

Rain Konno | 境界の外側

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